年収に対する住宅ローンの年間返済額の割合を示す返済比率。一般的に20%が理想といわれていますが、実際は何%になればよいのか知りたい人もいるでしょう。
本記事では、住宅ローンの返済比率の目安から計算方法、注意点まで解説します。返済比率を抑える方法や借入金額ごとのシミュレーションなども紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

大学卒業後に銀行員として勤務、法人顧客の経営支援・融資商品の提案や、個人向け資産運用相談を担当。 2020年にマイベストに入社、自身の銀行員時代の経験を活かし、カードローン・クレジットカード・生命保険・損害保険・株式投資などの金融サービスやキャッシュレス決済を専門に解説コンテンツの制作を統括する。 また、Yahoo!ファイナンスで借入や投資への疑問や基礎知識に関する連載も担当している。
返済比率は、年収に対して住宅ローンの年間返済額がどのくらいの割合になるかをあらわす指標です。住宅ローンの審査では、返済比率を重要視する金融機関も多くあります。国土交通省の「民間住宅ローンの実態調査」によると、審査の構成比がとくに高い項目は以下のとおりです。
審査ではさまざまな項目を見て融資を判断していますが、実態調査の結果から返済比率も厳しくチェックされていることがわかるでしょう。返済比率が高くなるほど家計への負担が重くなり、金融機関の審査も厳しくなる傾向があります。そのため、無理のないローンの返済計画を立てる際は、返済比率を意識して考えることが重要です。
返済比率は、「全ローン返済にかかる金額(年)÷年収×100」の計算式で算出できます。ここで、具体的な計算例をご紹介しましょう。
年収500万円の人が年間100万円を返済するときを想定し、計算式に当てはめると返済比率は以下のようになります。
100万円÷500万円×100=返済比率20%
返済比率を計算する際は、住宅ローン以外のローンの年間返済額も足して計算してください。代表的なローンには以下のものが挙げられるので、計算前に借り入れがないか確認しましょう。
クレジットカードのリボ払いやスマートフォンなどの分割払いもローンと扱われるので、忘れず年間返済額に含んでください。
金融機関によって返済比率の上限は異なりますが、30~35%が一般的です。なお、フラット35など一部の住宅ローンでは、返済比率に上限が設定されていることがあります。
フラット35とは、住宅金融支援機構と全国300以上の金融機関が提携して提供している、全期間固定金利型の住宅ローンです。借入時の金利が全期間で変わらない特徴があります。
フラット35では、年収400万円以下であれば返済比率の基準は30%以下です。年収が400万円以上の場合は、返済比率の基準は35%以下と定められています。
借入金額や返済額を考える際、返済比率の上限が無理のない返済可能額と同じなわけではないので注意してください。たとえば、返済比率35%、年収400万円とした場合の年間返済額は以下のとおりです。
400万円×35%=140万円
年間返済額は140万円と算出されました。月額にすると約11.6万円となるので、手取り額が月収約26万円、年収約320万円だと想定すると、楽な数値とはいえません。
上限ギリギリで支払いを続けていると、予想外の事態が起きたときにお金がなくて対応できなくなる可能性もあります。そのため、返済比率は余裕を持って決めることが大切です。
住宅ローンの返済比率は、手取り収入の20%を目安に、最大でも25%にするのが理想的です。20~25%という数字は、家計の収支が変動するリスクや持ち家の維持・管理の支出が増えることが考慮されています。
住宅ローンは長期にわたって返済していくため、返済期間中に教育費が増えたり、転職で収入が減ったりと家計の支出が変動する可能性があるでしょう。さらに、持ち家の維持・管理のために、固定資産税や火災保険料、修繕費の支出も増えていきます。
これらに考慮して住宅ローンを返済していくには、少し余裕のある返済比率を考えなければなりません。手取り収入から返済比率を決めるのも、家計に若干変動が生じても無理なく返済するためです。
ここで、年間返済額120万円に対する返済比率を、額面年収400万円と手取り年収340万円の場合で計算してみます。
120万円÷400万円×100=返済比率30%
120万円÷340万円×100=返済比率約35%
額面年収では返済比率が30%になるのに対して、手取り収入では約35%と算出されました。額面年収と手取り収入では返済比率が異なるため、毎月の負担も変わってきます。返済比率を考えるときは、家計や将来のライフプランを考慮して決めましょう。
住宅金融支援機構の「2021年度 フラット35利用者調査」によると、フラット35の返済負担率(返済比率)の全体平均は22.7%です。物件別の2021年度の平均返済負担率を見てみましょう。
返済負担率の平均を比べてみると、なかでも中古住宅が比較的低めです。この調査結果から、実際に住宅ローンを借りた人の返済負担率の平均は理想の範囲に収まっていることがわかるので、ローンを組むときの参考にしてみてください。
年収別に返済比率や返済額がどれくらいになるのか、シミュレーションしてみました。今回は以下の条件で、毎月の返済額、年間返済額、返済比率を算出していきましょう。
①共通条件:借入期間35年、金利1%、元利均等返済
②額面年収:350万円、600万円、800万円
③借入金額:3,000万円、4,000万円、5,000万円
→毎月の返済金額:8.5万円
→年間返済額:102万円額面年収350万円の場合、借入金額が3,000万円であれば返済比率が29.14%なので、金融機関が求める範囲に収まっています。フラット35の年収400万円以下は30%以下の基準も満たしているので、審査が通る可能性は高いでしょう。
しかし、4,000万円以上の借り入れとなると金融機関の範囲では収まらず、フラット35の基準も満たしていません。また、全体的に理想の範囲である20~25%よりも大幅に高いといえます。無理のない返済をするためには借入金額を下げる検討が必要でしょう。
額面年収が600万円の場合、いずれの借入金額も金融機関が求める基準とフラット35の基準を満たしているので、問題なく審査に通過すると考えられます。ただし、借入金額が5,000万円あたりになると、理想の範囲から離れてしまうので注意してください。
額面年収800万円では、いずれの借入金額でも返済比率が大幅に下がる結果となりました。借入金額が3,000~5,000万円であれば、金融機関の審査で落ちるリスクは低く、フラット35の利用も可能でしょう。理想の範囲内の返済比率なので、余裕を持って返済ができると考えられます。
頭金を増額することで借入金額が少なくなるので、それにともない返済比率を抑えることが可能です。頭金を増やすと、利息の軽減や金融機関によっては住宅ローンの適用金利が下がることも期待できます。
ただし、すべての自己資金を頭金にあてないように注意してください。住宅の購入ではさまざまな必要が発生するため、自己資金が足りず支払いができなくなる可能性があります。予想外の支出が発生するときの貯蓄も用意したうえで、頭金の割合を決めましょう。
返済期間を長く設定すれば、年間返済額を抑えられるため、それによって返済比率を下げることが可能です。返済回数が多いと、1回あたりの返済額が少なくなり、貯蓄に回せる分も増やせるメリットがあります。
ただし、返済期間が長くなると利息を多く支払うことになるので、総返済額が増えてしまう点に要注意です。金融機関によっては保証料が高くなる場合もあります。
金融機関のシミュレーションサイトを利用したり、金融機関の担当者に確認したりして、借入額や増える負担を事前に確認して判断することが大切です。
返済比率を抑えたいときは、住宅ローンを借りる前にほかの借り入れを完済して年間返済額を減らすことも大切です。
返済比率は、1年間で支払うすべての返済額から算出されます。そのため、年間返済額が少なくなれば、返済比率も抑えられるわけです。すべての借り入れを完済するのが難しいときは、金利が高いローンから完済していきましょう。
住宅ローンの返済比率を考えるときに、いくつか注意点があるので紹介します。
返済比率を検討する際は、家計が苦しくならない金額で設定しましょう。返済を優先するあまり、家計を圧迫して生活が破綻に追い込まれてしまうかもしれません。また、生活に影響が出るほどの金額設定は、住宅ローンの返済が滞る原因になるケースもあります。
住宅ローンの返済は家庭の一部であり、中心になることは避けましょう。返済比率は上限ではなく、20%程度で検討してみてください。また、返済比率だけに囚われず、自分の生活や家族の特性、家計の状況なども考慮して返済計画を立てることが大切です。
住宅ローン以外の借り入れや諸費用も把握して、返済比率を考えていきましょう。住宅ローン以外に、すでにほかのローンを利用している人は多いはずです。よく利用されるローンには、以下のものが挙げられます。
さらに、住宅を持つと維持や管理のためにさまざまな費用が発生する点にも注意が必要です。具体的にかかる費用には、以下のものが挙げられます。
返済比率は、あくまでも住宅ローンの返済部分しか考慮していません。住宅を購入すれば、上記の諸費用も発生するため、住宅ローンの返済額にも影響を与えます。
毎月の返済の負担が大きくならないように住宅購入後の諸費用に考慮しつつ、預貯金などを使って可能な限り借り入れを完済してから、住宅ローンに申し込むのも方法のひとつです。
無理なく返済できる借入限度額を調整するためには、適用金利と審査金利の違いを理解する必要があります。
適用金利は、実際の返済で適用される金利のこと。一方、審査金利は審査で使われる金利を指します。審査金利は適用金利よりも高く設定されているのが特徴です。
将来、金利が上がれば適用金利も上がってしまうため、返済額の負担が大きくなり、住宅ローンが破綻するリスクも高まるでしょう。金融機関はそのリスクを想定して、審査金利を高めに設定し、無理な借り入れを防止しています。
返済比率を計算する際、金利が適用金利か審査金利かによって、借入可能額や返済額が変わってくるので注意しましょう。
たとえば年収400万円の人が3,000万円を30年間、元利均等で借りるとき、金利2%と0.475%では、毎月の返済額・返済総額・返済比率は以下のように算出されます。
<金利2%の場合>
<金利0.475%の場合>
計算結果を見てみると、金利が高いと返済額が増え、返済比率も高まる結果となりました。返済を無理なく進めるためにも、審査金利でも返済に支障のない借入額に設定することが重要です。
住宅ローンを組む際は金利タイプも理解し、金利の上昇リスクを想定して返済比率を考えていきましょう。住宅ローンの金利タイプには、変動型、固定期間選択型、全期間固定型の3タイプがあります。
変動型は、半年を目安に金利が見直されるのが特徴です。元利均等返済の場合は通常5年毎、元金均等返済は金利が変動する際に毎月の返済額も見直されます。金利が下がれば返済額が少なくなることがメリットです。ただし、金利によって返済額が左右される特徴から、ローンを契約した時点で総返済額の把握ができないデメリットがあります。
固定期間選択型は、一定期間は金利が固定される金利タイプです。固定期間の指定ができ、期間終了後は変動型か、再度固定期間の選択ができます。期間中は返済額が変わらないことがメリットですが、固定期間が終わったあとの返済額を契約した時点で把握できない点がデメリットです。
全期間固定型は、完済まで契約した時点の金利で返済できます。金利が固定されるので返済額が変わる不安もなく、返済計画が立てやすいことが大きなメリットです。ただし、契約後に金利が下がると、その恩恵を受けられないことがデメリットといえます。
変動型と固定期間選択型は返済負担率が変わる可能性がありますが、金利の見直しがある分、全期間固定型よりも金利が低くなるときもあることが魅力です。金利タイプごとにメリット・デメリットがあるので、特徴を把握し、返済開始後に負担が増える可能性があるかどうかを確認してから返済比率を決めましょう。
個人事業主の場合、返済比率は売上ではなく所得から考えましょう。給与所得者は年収から返済比率を求めます。しかし、個人事業主の場合、住宅ローンの審査では確定申告書の所得合計から判断されるため、売上をベースに返済比率を決めると審査が不利になる可能性があるので要注意です。
個人事業主の所得とは、収入(売上金額)から事業に必要な経費を差し引いた利益を指します。一般的に、個人事業主の所得は会社員の年収よりも抑えられていることが多いため、住宅ローンの審査は厳しめです。
また、赤字の年があると売上があったとしても、住宅ローンの審査で不利になる場合があります。住宅ローンの審査では、直近3期で連続して黒字かどうかを条件に判断するのが一般的です。ただし、1期分の所得で審査をする金融機関や申告所得金額で評価を行わない金融機関もあるため、そういったところの住宅ローンを検討するとよいでしょう。
住宅ローンの返済比率は、無理なく返済できるかどうかを判断するための指標です。住宅ローンの審査で厳しくチェックされる項目のひとつなので、理想の20~25%に抑えられるように借入金額や返済期間を調整するなど工夫しましょう。
住宅ローンには、いろいろな種類があります。どの住宅ローンを組もうか悩んでいる人は、下記の記事で紹介している人気商品ランキングを参考に、自分に合った住宅ローンを選んでみてください。
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