老後に向けた資産形成のために、加入者が増えているのが私的年金制度iDeCo。積み立てを継続しているものの、転職や退職にあたって、どのような手続きをすればよいかわからず困っている人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、企業型確定拠出年金からiDeCoに移管する方法や、その逆のケースについて解説します。さらに、iDeCo運用中に金融機関を乗り換える方法も紹介するので、参考にしてみてくださいね。
明治大学法学部卒業後、ITエンジニアとして自治体や金融機関のシステム開発に従事。その後、国内生保にて法人の福利厚生等のコンサルティング営業に転身。2009年より独立系FPとして開業し、一般的な個人向けFP相談の他、法人オーナー対象のコンサルを行っている。現在はコンサル経験を活かした金融ライターとしても活動中。
大学卒業後に銀行員として勤務、法人顧客の経営支援・融資商品の提案や、個人向け資産運用相談を担当。 2020年にマイベストに入社、自身の銀行員時代の経験を活かし、カードローン・クレジットカード・生命保険・損害保険・株式投資などの金融サービスやキャッシュレス決済を専門に解説コンテンツの制作を統括する。 また、Yahoo!ファイナンスで借入や投資への疑問や基礎知識に関する連載も担当している。
iDeCoの移管とは、積み立てた年金資産を転職や退職時に持ち運ぶこと。積み立てた年金資産を転職先の会社が持つ企業型確定拠出年金やiDeCoに持ち運ぶことを、ポータビリティと呼びます。ポータビリティを利用するためには、移管手続きをしなければなりません。
広い意味では、iDeCoの運用金融機関を乗り換えることも移管と呼ばれることがあります。この記事では、企業型確定拠出年金とiDeCo間の移管手続きについて解説するとともに、後半では金融機関の乗り換え方法も説明しますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
企業型確定拠出年金(DC)に加入していた人が、確定給付企業年金(DB)や企業型DCなどの企業年金制度を導入していない企業や、DBのみを実施する企業に転職する場合は、運営管理機関に「個人別管理資産移換依頼書」を提出することでiDeCoに移管できます。
新たにiDeCoに加入する場合は「個人型年金加入申出書」の提出も必要ですが、継続の場合は必要ありません。移管手続きが完了するまでに1〜2か月程度かかり、移管した資産が反映されるまでにはさらに1〜2か月程度かかるので注意しましょう。
DBや企業型DCを導入していない企業に勤務してiDeCoを利用するケースでは、iDeCoの掛金上限額は月々23,000円です。
企業型DCを実施する企業に転職する場合は、通常は転職先企業に移管手続きを申し出る必要があります。また、企業型DCではなくiDeCoに移管することも可能です。
iDeCoに移管する場合は、転職先が記入した「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を運営管理機関に提出します。これに加えて、会社員が厚生年金の適用事業所に転職する場合は「加入者登録事業所変更届」の提出も必要です。
自営業者や専業主婦(主夫)でiDeCoに加入していた人が、就職して会社員となったあとも引き続き加入する場合は、国民年金の種別が第2号被保険者に変わるため、「加入者被保険者種別変更届(第2号被保険者用)」も提出します。
新たに掛金を拠出する場合は、「個人型年金加入申出書」も提出しましょう。企業型DCに加入している人のiDeCoの掛金上限額は、月々20,000円です。
移管手続き完了までに1〜2か月程度、移管した資産が反映されるまでにはさらに1〜2か月程度かかります。
iDeCoのコストは加入者が負担しますが、企業型DCのコストは事業主が負担します。転職先の企業型DCの商品ラインアップに特に不満がなければ、企業型DCに移管したほうがよいでしょう。
会社員が転職や退職に伴い、公務員・自営業者・専業主婦(主夫)・無職になる場合は、運営管理機関に「個人別管理資産移換依頼書」を提出することで積み立てた資産をiDeCoに移管できます。新たに掛金を拠出する場合は、「個人型年金加入申出書」を提出しましょう。
iDeCoの掛金上限は、公務員になる場合は月額12,000円、専業主婦(主夫)などの場合は月額23,000円、自営業者は68,000円です。
移管手続きが完了するまでに1〜2か月程度、移管した資産が反映されるまでにさらに1〜2か月程度かかるので、早めに手続きを済ませましょう。
転職先の企業型DCに加入する場合は、iDeCoから企業型DCへの移管手続きをすることになります。
iDeCoの加入者資格は喪失するので、「加入者資格喪失届」に資格喪失の理由と喪失年月日を証明する書類を添付し、運営管理機関に提出しましょう。細かい手続きは、転職先の人事・労務担当者に確認してください。
資格喪失時点でiDeCoで運用していた商品は、一旦売却して現金化し、転職先の企業型DCで改めて運用商品を購入することになります。
なお、転職をしてもiDeCoでの運用は継続可能です。厚生年金加入者が引き続きiDeCoに加入するのであれば、「加入者登録事業所変更届」と転職先が記載した「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を運営管理機関に提出しましょう。
企業型確定拠出年金の加入資格を喪失し、6か月以内にiDeCoへの移管手続きをしなかった場合、自動移管となるため注意しなければなりません。自動移管とは、積み立てた年金資産が国民年金基金連合会に自動的に移管されることです。
自動移管されると、積み立てた資産は現金の状態で管理されるので、運用の指図ができません。運用ができないと、利益も得られなくなってしまいます。その一方で、管理手数料は差し引かれるのもデメリットです。
管理手数料は月額52円、年間624円が個人別管理資産額より差し引かれます。
自動移管をしている期間は老齢給付金を受け取るための加入者期間に算入されず、受給開始が遅れる可能性もあります。自動移管になってしまわないよう、移管手続きは早めに行いましょう。
iDeCoを運用しているあいだに金融機関を乗り換えることでメリットを得られるケースは、以下のとおりです。
運用コストが高すぎる場合は、iDeCoの金融機関を乗り換えるとメリットがあります。
iDeCoの運営管理手数料は無料とする金融機関が主流になってきているものの、毎月数百円かかるケースもあるのが現状です。
iDeCoは長期的に運用する制度なので、手数料が高いとその分負担が大きくなってしまうでしょう。運用コストが高い場合は金融機関を変更し、手数料の負担を抑えることを検討してみる価値があります。
運用管理手数料のほか、信託報酬も毎日口座から差し引かれるコストです。信託報酬率が高いほどたくさんの手数料を引かれるので、信託報酬が低い投資信託を選べる金融機関に乗り換えるとコストを抑えられるでしょう。
金融機関の運営管理手数料が無料でも、国民年金基金連合会と信託銀行への手数料が171円かかります。つまり、毎月171円以上の利益が出ないと資産が目減りするわけです。
そのため、掛金が少額であるほど、手数料の影響は大きくなります。もし、運営管理手数料が300円であれば、毎月負担するコストは400円以上に。5,000円の掛金で400円の利益を得るのは難しいのではないでしょうか。
iDeCoを始めるなら運営管理手数料が無料の金融機関を選びましょう。
現在使っている金融機関が提供する運用商品に魅力がない場合も、金融機関を乗り換えることでメリットを得られるでしょう。
iDeCoでは、金融機関ごとに取り扱う商品が異なるので注意。多くの金融機関が顧客に選ばれるために信託報酬が低い商品の追加をしていますが、それでも商品を追加しない金融機関はiDeCo運用に力を入れていない可能性があります。
数年以上新しい商品が追加されていない場合、今後も大幅にラインナップが増える可能性は低いでしょう。
現在利用している金融機関で、運用実績や信託報酬の面で魅力的な商品がなく、新たに追加もされていないのであれば、金融機関を乗り換えることでより条件のよい商品に投資できる可能性があります。
iDeCoの金融機関の変更を検討する場合には、デメリットも踏まえて乗り換えるかどうかを慎重に決めましょう。
iDeCoの金融機関を乗り換えると、移管時に手数料が発生します。移管時に発生する手数料は、元々利用していた金融機関と変更先の金融機関の両方に支払わなければなりません。
利用していた金融機関に支払う手数料は、一般的に4,400円です。変更先の金融機関に支払う手数料は無料の場合もありますが、公表されておらずコールセンターに問い合わせなければ金額がわからないケースもあります。
いずれにしても移管時に発生する手数料は決して安い金額ではないので、金融機関の変更を何度も繰り返すと大きな負担となってしまうでしょう。安易に乗り換えるのではなく、慎重に検討してください。
iDeCoの金融機関を乗り換えるためには、運用していた商品を一度現金化しなければならないのもデメリットです。
これまで運用していた商品は変更先の口座に持ち運べないため、一度売却して現金化したうえで変更先の口座に入金することになります。その後、変更先の金融機関が取り扱っている運用商品のなかから改めて運用するものを選ぶのが乗り換えの流れです。
金融機関を乗り換える場合、2〜3か月ほどの事務処理期間が生じ、その間は売買ができません。その結果、移換手続き期間中に、株価の大幅な変動があり、結果的に資産が目減りしてしまう場合があります。
また、乗り換え先の金融機関で再度運用商品を購入するためには、手数料が必要です。移管にかかる手数料に加えて購入にも手数料がかかると、負担が大きくなってしまうでしょう。
移管手続き中に値動きの影響を受ける場合があります。
このようなリスクを避けるには、移管前に運用商品を一旦定期預金などの元本確保型商品に預け替えるのも1つの方法です。
iDeCoの金融機関を変更すると、運用利回りの情報がリセットされてしまうこともデメリットです。
iDeCoを運用する金融機関は、加入者の積み立て履歴を踏まえた年率換算の運用利回りを提示してくれます。長期的な積み立て投資をするうえで、運用利回りの情報は貴重であり、定期的に確認したい指標といえます。
ただし、運用管理期間を変更すると、乗り換え先の金融機関では引き継いだ以降の運用利回りしか表示されません。iDeCoを始めた頃からの通算運用利回りは引き継げないため、確認できなくなってしまいます。
運用利回りは、個人が計算するのが難しい複雑な数値です。気軽に数値を確認できなくなってしまうことは、iDeCoを運用するうえで大きなデメリットといえるでしょう。
iDeCoの金融機関変更はデメリットが多いため、金融機関で勧誘されてもすぐには決めないほうが賢明です。比較検討して有利な金融機関で運用をしましょう。
iDeCoの金融機関を変更するためには、乗り換え先の金融機関に「加入者等運営管理機関変更届」を提出する必要があります。住所や氏名のほかに、掛金の配分指定と移管金の配分指定を記入しなければなりません。
必要事項を記入したら、書類を提出しましょう。移管の際は国民年金基金連合会の審査があるので、手続きが完了するまでに1〜2か月ほどかかります。書類に不備があるとさらに時間がかかるため、記入した内容に問題がないか確認してくださいね。
以下の記事では、iDecoのおすすめの金融機関・商品や選び方を紹介しています。iDecoについて理解が深まり、実際にどの金融機関でどの商品を運用したらよいのかを知りたいという人は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
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