大きな節税効果があるiDeCo(個人型確定拠出年金)。しかし、iDeCoの最適な受け取り方が分からず、どうすればしっかり節税できるのか気になっている人が少なくないでしょう。
そこで今回は、iDeCoを受け取るときの税金についてわかりやすく解説します。税金を大きく減らせる退職所得控除の計算方法や、公的年金や会社の退職金を含めたiDeCoの出口戦略についても解説するので、ぜひ最後までチェックしてみてください。
大学卒業後に銀行員として勤務、法人顧客の経営支援・融資商品の提案や、個人向け資産運用相談を担当。 2020年にマイベストに入社、自身の銀行員時代の経験を活かし、カードローン・クレジットカード・生命保険・損害保険・株式投資などの金融サービスやキャッシュレス決済を専門に解説コンテンツの制作を統括する。 また、Yahoo!ファイナンスで借入や投資への疑問や基礎知識に関する連載も担当している。
iDeCoの受け取り時に税金の支払いが必要かどうかは、受け取る方法やタイミング、勤務先の退職金や公的年金の金額などで変わるので注意が必要です。
iDeCoの受け取り方法には、分割して受け取る年金・一括でもらう一時金・年金と一時金の併用の3つがあります。受け取り方によって税金の計算方法が異なるので、以下で解説する計算方法を確認し、あらかじめいくら税金がかかりそうか見積もっておくことが重要です。
ここでは、iDeCoで積み立てた資金を一度にすべて受け取る際の、税金の計算方法を解説します。注意点も説明するので、受け取り前にチェックしておきましょう。
iDeCoを一時金で受け取ると、会社からの退職金と同じ退職所得として扱われます。
退職所得は、ほかの所得とは切り離して所得税を算出する分離課税方式なので、税金の支払い額をおさえやすくなるのがメリット。総合課税よりも税率が低いことが理由です。
積み立てた資産が一括で受け取れるうえ、課税所得も大きく下げられるため、税金の支払いを少なくできるのがポイントです。
また、退職所得控除はiDeCoに加入した期間が長くなるにつれて大きくなるので、長期投資に向いているiDeCoは恩恵を受けやすくなります。次項で、詳しい計算方法をチェックしてみましょう。
iDeCoを一時金で受け取るときの税金額を出すためには、まず退職所得と退職所得控除を計算する必要があります。
算出した退職所得控除をiDeCoの一時金から差し引いて退職所得を出し、それに対して各種税率をかければ、支払うべき住民税と所得税を算出することが可能です。
まず、退職所得控除額から求めます。退職所得控除は、iDeCoの加入期間によって計算方法が異なるため、注意が必要です。
なお、iDeCoの場合は、「勤続年数=iDeCoの加入年数」と捉えて計算してください。例えば、加入年数が25年だとすると、以下の計算ができます。
上記の数字が、退職所得控除額です。
次に、退職所得額を求めてみましょう。退職所得額は、以下の計算式で求められます。
上記の収入金額は、iDeCoの一時金として受け取れる額だと考えてください。先述の計算で出た退職所得控除額1,150万円で、受け取れる一時金が1,500万円だと仮定すると、以下の計算ができます。
上記175万円の退職所得が、課税対象になる金額です。175万円に、税率をかければ所得税と住民税を出すことができます。
退職所得が175万円であれば所得税率は5%、住民税率は10%になるため、以下の計算で各種税金の支払額を出すことが可能です。
会社員ではない個人事業主の場合も、同じ方法でiDeCoの一時金にかかる税金を計算できます。
iDeCoの一時金と会社からの退職金を同時期に受け取ると、納める税金が増えるおそれがあるので注意してください。
例えば、35~60歳の25年間で同じ会社に勤務し、iDeCoを50~60歳の10年間積み立てて、退職金とiDeCoの両方を60歳で受け取る場合を考えてみましょう。
退職所得控除の計算方法は、以下の2つだと解説しました。
先ほど出した例だと、会社に勤めたのは25年間であるため、本来会社からもらえる退職金に対する退職所得控除は、勤続年数が20年超えの場合の計算式にあてはめられることになります。
会社からの退職金にあわせてiDeCoの一時金ももらう場合には、会社の勤続年数とiDeCoの加入期間を合算して数えることができません。退職所得控除の金額を計算する際、勤続年数か加入期間を比較して長いほうが採用されますよ。
一方で、25年間同じ会社に勤務した人が退職金だけを受け取るとすると、勤続年数20年超えの場合の計算式が適用されるため、退職所得控除額は以下のとおりになることがわかります。
iDeCoと退職金の両方を受け取る場合は、iDeCoを受け取る分課税される所得が増えるため、支払う税金が増えます。
会社に勤めながらiDeCoに加入している場合は、後項で解説する「iDeCoを受け取るときに損をしないコツ」をチェックしてお得に受け取る方法を確認してください。
iDeCoの受け取り方を年金形式にすると、運用していた資産を分割して定期的にもらえます。一時金とは課税所得の計算方法が異なるので、年金形式の選択を検討している人は確認しておきましょう。
iDeCoを年金として受け取ると、公的年金と同じ雑所得として計算されます。雑所得とは、給与所得や事業所得などに該当しないそのほかの所得をまとめたものです。
iDeCoを年金として受け取るメリットは、定期的に決まった金額を受け取れるため、公的年金の受給時期を遅らせて毎月の受け取り額を増やせること。公的年金は、受給時期を遅らせることで1か月あたりにもらえる金額が増えるのが特徴です。
また、iDeCoを少しずつ受け取ることで、iDeCoに残っている資産は継続して運用できるため、利益が出ればiDeCoの受け取り額の増加も期待できます。
一方で、口座管理手数料や給付手数料が毎月発生するのがデメリットです。一時金と比較すると、退職所得控除も適用されないため税金が増えることや、国民健康保険料が高くなる可能性もあります。
次の項目で、具体的な計算方法をチェックしてみましょう。
iDeCoの年金で受け取ると雑所得として扱われるため、まずは雑所得を算出することが必要です。雑所得は、年齢が65歳以上かどうかと、公的年金も合わせた収入額によって計算方法が異なります。
まず、iDeCoの受け取り額や公的年金などを合わせた収入が、65歳未満で60万円以下、65歳以上で110万円以下なら税金はかかりません。
上記の金額を超えると雑所得が発生するので、具体的な計算が必要です。
例えば、iDeCoの年金と公的年金の年間収入合計額が300万円になる、60歳の人を考えてみましょう。雑所得は、以下の計算式で求められます。
iDeCoの年金と公的年金の年間収入合計額が300万円だと仮定すると、以下の計算ができます。
一方で、iDeCoの年金と公的年金の年間収入合計額が同じ金額でも、65歳を超えると金額に応じた割合と控除額が異なるので、雑所得も異なります。65歳を超えている場合には、雑所得は以下の計算で算出することが可能です。
収入に応じた雑所得の算出方法や割合を細かく知りたい人は、国税庁の公式サイトをチェックしてみてください。
iDeCoの年金と公的年金以外に収入がない場合は、上記の雑所得から各種控除を差し引いたあとで所定の税率をかけると、所得税と住民税を算出することが可能です。ほかに収入がある場合は、年金と合算した額に対して税金がかかります。
収入が年金しかなく、上記の計算で求めた雑所得が190万円、かつほかに差し引ける控除がない場合を例にすると、所得税率は5%、住民税率は10%に。それぞれ以下の額になることがわかります。
ここまでで確認したiDeCoの受け取り方ごとの税金負担の計算方法は複雑な部分もあり、自分で計算したうえで、どちらの受取方法にするか決めるのはなかなか骨が折れますよね。そこで、以下ではおすすめのiDeCoの受取方法を、タイプごとに紹介します。
iDeCoを一時金で受け取ることがおすすめな人は、退職金が少ない会社員や、退職金のない自営業者・専業主婦などです。
自営業者と専業主婦は、そもそも会社の退職金がないので、両方の受け取り時期が重なって退職所得控除を十分に活かせなくなる危険性がありません。
iDeCoを年金で受け取るのがおすすめなのは、会社の退職金やiDeCoの一時金が退職所得控除を大幅に超えてしまう人です。「一時金の税金額を計算する方法」で紹介した計算式に当てはめ、一度計算してみてください。
十分に退職所得控除ができないと、せっかく積み立てたiDeCoや長年勤続することでもらえた退職金が、大幅に減ってしまう危険性があります。
もし一時金での受け取りだとかえって税金が増えそうな場合には、年金での受け取りを検討しましょう。
年金として受け取る場合、65歳以上の人ならiDeCoの年金と公的年金の合計が年間110万円以下であれば、税金がかかりません。65歳未満の人なら、年間60万円以下であれば税金がかからないルールです。
110万円もしくは60万円以上になる場合は、「年金として受け取るときの税金額を計算する方法」で紹介した計算式で雑所得を算出し、どのくらい税金がかかるか確認してみましょう。
最後に、iDeCoを受け取るときに損をしないためのコツを紹介します。
iDeCoを一時金で先に受け取り、会社の退職金を5年後に設定すると、支払う税金を減らすことができます。退職所得控除には、5年ルールと呼ばれるものが存在しているためです。
5年ルールとは、iDeCoの一時金と会社からの退職金のように、2種類の退職金がある場合に、両方とも4年以内に受け取ると退職所得控除が一度しか使えないもの。
「一時金と退職金を両方もらえる場合はどうなる?」で解説したように、iDeCoの加入期間と会社での勤続年数を差し引きしたうえでしか退職所得控除が計算できないため、両者を4年以内に受け取ると支払う税金が高くなります。
反対にいえば、iDeCoの一時金と会社の退職金をそれぞれ5年あけて別々で受け取れば、退職所得控除を2回適用させることが可能です。iDeCoはiDeCoで退職所得控除を受けることができ、会社の退職金は退職金で別途退職所得控除が使えることになります。
iDeCoの一時金を先に60歳で受け取り、会社からの退職金は65歳に受け取るなど、5年の期間があくように計画立ててそれぞれお得に受け取るようにしましょう。
会社の退職金をiDeCoの一時金より先に受け取る場合は、先述した5年ルールが適用できず、退職所得控除の19年ルールがネックになるので気をつけてください。
19年ルールでは、会社からの退職金を受け取ってから19年以内にiDeCoの一時金も受け取ると、退職所得控除が一度しか使えなくなってしまうのが特徴です。退職や転職で退職金を受け取ったタイミングによっては、19年ルールが適用されてしまいます。
会社からの退職金を先に受け取る必要がある場合には、iDeCoの受け取りまで19年あけることが必要です。iDeCoは最長75歳まで受け取りを引き伸ばせるため、会社からの退職金を遅くとも55歳で受け取り、75歳の年に一時金を受け取れば、19年ルールを回避することができます。
55歳以降に退職金を受け取らなければいけない状況にある場合は、次に紹介する一時金と年金との併用も検討してみてください。
iDeCoの一時金を受け取るときの税金額が大きい場合は、年金と一時金を組み合わせて受け取ることも検討してみてください。
例えば退職金を先にもらってしまった場合は、退職所得控除の枠を使い切る金額までiDeCoを一時金で受け取り、残りを年金で定期的にもらうのも方法の1つです。税金を最小限におさえたうえで、受け取る予定のiDeCoの資産をある程度まとめて早めにもらえます。
一時金と年金をどの割合にするとお得になるかは、退職金の額やもらったタイミングなど人によって異なるので、事前にしっかり計算しておきましょう。
iDeCoを年金として受け取ると毎年の収入が増えるので、所得税や住民税以外に国民健康保険料の支払い額も大きくなります。国民健康保険は、本来70歳以上だと医療費の支払いが少なくなりますが、年収が約370万円を超えると現役世代と同じ3割負担になってしまうので注意が必要です。
また、iDeCo口座の管理手数料が毎月発生するほか、給付手数料も年金を受け取るたびに発生するため、すべてあわせると1回に数十~数百円を払い続ける必要があります。一度の支払い額は少なくても、トータルで考えると何万円もの出費になる可能性も。
iDeCoの受け取りにかかる税金だけでなく、手数料や保険料まで総合的に把握して、どの方法で受け取るのがベストなのかという出口戦略を考えておくことが大切です。
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