譲渡所得税や印紙税など、さまざまな税金がかかる不動産売却。支払う税金の種類や金額に加え、節税方法をあらかじめ知っておきたい人も多いのではないでしょうか。
今回は、不動産売却にかかる税金の種類や受けられる控除を紹介します。税金の負担を軽減するためにも、不動産売却と税金の仕組みをきちんと押さえておきましょう。
大学卒業後に銀行員として勤務、法人顧客の経営支援・融資商品の提案や、個人向け資産運用相談を担当。 2020年にマイベストに入社、自身の銀行員時代の経験を活かし、カードローン・クレジットカード・生命保険・損害保険・株式投資などの金融サービスやキャッシュレス決済を専門に解説コンテンツの制作を統括する。 また、Yahoo!ファイナンスで借入や投資への疑問や基礎知識に関する連載も担当している。
不動産売却にかかる主な税金は、印紙税・登録免許税・消費税・譲渡所得税の4つです。それぞれどのような税金なのか把握しておきましょう。
印紙税額は文書に記載された金額に応じて変わる仕組みです。印紙税額の一例を見てみましょう。
【文書に記載の金額:印紙税額】(※不動産譲渡に関する契約書の場合)
印紙税額の区分は細かく決められています。詳しく知りたい人は、国税庁公式サイトをチェックしてみてください。
2023年11月時点では、平成9年4月1日~令和6年3月31日に作成された契約書の印紙税に対して軽減措置が設けられており、印紙税額が半額になります。不動産譲渡契約書に記載された金額が10万円以上であれば控除の対象です。
不動産の売却時には登録免許税もかかります。免許登録税は、土地・建物の所有権を書き換えるときにかかる税金です。
土地・建物を所有すると、登記簿と呼ばれる公の帳簿に権利関係の情報が登録されます。不動産を売却すると所有権を持つ人が変わるので、登記簿の書き換えが必要です。その際、売却する不動産の固定資産評価額の2%が登録免許税として徴収されます。
固定資産評価額は、固定資産税の課税基準になる土地・建物の評価額です。固定資産税の納税通知書や、役場の窓口で発行できる固定資産税評価証明書で確認できます。
不動産の売買では、新たに所有権を得る買い手が登録免許税を負担するのが一般的です。しかし、売り手・買い手のどちらが登録免許税を負担するかは見解が分かれるため、場合によっては売り手が負担することもあるとおぼえておきましょう。
なお、令和8年3月31日までに登記変更を行う際は、軽減措置により1.5%の税率が適用されます。詳しくは国税庁公式サイトをチェックしてみてください。
不動産を売買する際は宅地建物取引業者に仲介を依頼し、報酬として仲介手数料を支払うのが一般的です。仲介業者は、売却する不動産の査定や売却の条件交渉、書類作成などさまざまな役割を担います。
仲介手数料には法定上限額が定められており、売買価格が200万円以下は5.5%、200万超~400万円は4.4%、400万円を超えると3.3%です。たとえば1,000万円で不動産の売却が成立すると、仲介手数料は33万円。さらに消費税として3万3,000円が発生します。
2023年12月時点では仲介手数料の軽減措置や特例は設けられていません。売却のタイミングによっては軽減措置が設けられている可能性もあるので、不動産を売却する前に調べておくとよいでしょう。
不動産を売却するときには、譲渡所得税と呼ばれる税金も発生します。譲渡所得税とは、不動産売却時の利益に対してかかる住民税・所得税・復興特別所得税の一般的な総称です。
土地・建物を売った値段ではなく、不動産の入手価格や売却費用を差し引いた純利益に対して課されます。不動産の売却で所得が生じた場合のみ発生する税金なので、利益が出なければ支払う必要はありません。
譲渡所得税の税率は、該当する不動産の所有期間によって変わります。年数によっては税率に2倍近くの差があるので注意しましょう。
ちなみに、譲渡所得税はほかの所得と別に税額を計算する分離課税にあたるため、通常は確定申告の必要がない会社員でも別途申告・納付が必要です。
譲渡所得税をあらかじめ知りたい場合は、これから紹介する手順で計算できます。実際の計算例とあわせて参考にしてみてください。
不動産売却にかかる譲渡所得税は、課税譲渡所得金額に既定の税率をかけることで算出できます。それぞれの手順を詳しく解説するので、実際に計算するときの参考にしてみてください。
まずは課税対象の譲渡所得金額を計算しましょう。計算式は譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額=課税譲渡所得金額です。売ったお金から購入・売却にかかったお金と特別控除額を差し引くと、課税対象額を算出できます。
取得費の内訳は、不動産の購入費用や取得時の諸費用、減価償却費です。減価償却とは、経年によって目減りした価値を差し引くこと。不動産のうち建物は減価償却資産にあたるので、減価償却費を算出して取得費に含めます。
減価償却費の計算方法は、取得価額×0.9×償却率×経過年数です。詳しい計算方法は国税庁公式サイトで確認してみてください。
譲渡費用の内訳は、仲介手数料、測量費用、建物の取り壊し費用などです。要件を満たして特別控除が受けられる場合は、譲渡価格から控除される金額も差し引きましょう。
ちなみに譲渡所得がマイナスになっても、譲渡所得以外の所得と差し引きして税金を申告することはできません。ただし、要件を満たせば特例が適用される場合もあるので、記事後半の解説をチェックしてみてください。
譲渡所得にかかる所得税・住民税は、不動産の所有期間に応じて税率が変わる仕組みです。所有期間5年以下の短期譲渡所得の場合は所得税30%・住民税9%、5年を超えると長期譲渡所得に該当し、所得税15%・住民税5%が徴収されます。
なお、2013年から2037年までは復興特別所得税として所得税額の2.1%の納税も必要です。所得税・住民税・復興特別所得税の税率を合計すると、短期譲渡所得は39.63%、長期譲渡所得は20.315%が適用されます。
譲渡所得税の金額をシミュレーションすると、実際にどれくらいの税金がかかるのかをイメージしやすくなります。ここでは短期譲渡所得と長期譲渡所得に分けて、納税額を試算してみましょう。
仮定条件は所有期間4年、取得費4,000万円、売却額5,000万円です。取得経費は200万円、売却時にかかった経費は100万円、特別控除はないものとします。
課税譲渡所得金額の計算式は、5,000万円-(4,000万円+200万円+100万円)=700万円です。
所有期間4年は短期譲渡所得にあたるので、所得税30%+住民税9%+復興特別所得税(30%×2.1%)=39.63%を課税譲渡所得金額にかけます。計算式に当てはめると、納税額は700万円×0.3963=277万4,100円です。
仮定条件は所有期間6年、取得費4,000万円、売却額5,000万円とします。取得経費は200万円、売却時にかかった経費は100万円で、特別控除は含みません。
課税譲渡所得金額は5,000万円-(4,000万円+200万円+100万円)=700万円。長期譲渡所得に該当するため、所得税15%+住民税5%+復興特別所得税(15%×2.1%)=20.315%をかけます。納付額は700万円×0.20315=142万2,050円です。
ちなみに、シミュレーション時点では短期譲渡所得でも、実際の売却までに時間が空いて所有期間が5年以上になれば、長期譲渡所得の税率が適用されます。現時点で売却時期がわかっている場合は、実際の所有期間をふまえて計算しましょう。
不動産売却には税金がかかりますが、特例を使えば節税が可能です。納税額を抑えるために、ここで紹介する特例を把握しておきましょう。
マイホームを売却して利益が出たとき、特例を利用すると控除や税率の軽減、課税時期の延長ができる場合があります。それぞれの特例を詳しく解説するので、要件を満たせるか確認してみましょう。
マイホームを売ったときは、所有期間にかかわらず譲渡所得金額から最高3,000万円まで控除が受けられます。
控除の要件は、自分が住んでいる家屋、あるいは住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却する家屋である、マイホームの買い換えや交換の特例を受けていないなどです。
控除を希望する場合は、国税庁公式サイトに記載された要件に当てはまることを確認したうえで、確定申告時に譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)を提出しましょう。
注意点として、投資用マンションのように自分が住んでいない家屋の売却には控除が適用されません。特例の適用を目的に入居した家屋、マイホーム新築期間中の仮住まいなど、一時的に入居した住居なども適用外です。
また、住宅ローン控除との併用はできないので注意しましょう。
所有期間が10年を超えるマイホームを売却するとき、一定の要件に当てはまれば長期譲渡所得の税率が軽減されます。
売却する物件が日本国内にあり自分が住んでいる、住まなくなってから3年目の12月31日までに売却する、売る家屋・敷地の所有期間が両方10年を超えているなど、一定の要件をすべて満たすことが条件です。
特例が適用される場合の税額は、課税譲渡所得金額が6,000万円以下なら課税所得金額×10%で計算します。6,000万円超なら(課税所得金額-6,000万円)×15%+600万円です。
特例を利用したい場合は、譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)と売却した不動産の登記事項証明書を確定申告時に提出しましょう。
ほかの特例との併用は基本的にできませんが、前項で紹介した3,000万円の特別控除との併用は可能です。詳しくは国税庁公式サイトで確認してみてください。
マイホームを買い換える場合、条件を満たせば課税時期を延長できます。
たとえば、取得費用2,000万円のマイホームを4,000万円で売却すると、譲渡益の約2,000万円にかかる税金を納めなければいけません。しかし、売却して代わりのマイホームを買い換えれば、新しいマイホームを売却するまで課税のタイミングを延ばせます。
新しいマイホームを3,000万円で購入し、将来的に4,000万円で売却したとすると、譲渡益1,000万円に前回の譲渡益2,000万円を上乗せして税金が計算される仕組みです。
特例を適用するには、売却したマイホームが日本国内にある、売却価格が1億円以下、居住期間が10年以上、買い換える家が一定の耐震基準を満たしているなど、いくつかの要件があります。詳細は国税庁公式サイトで確認してください。
注意点として、この特例は課税時期が延長されるだけで、税額が減ったり納税が免除されたりするわけではありません。場合によっては将来的な税負担が重くなる可能性があると理解しておきましょう。
また、3,000万円の特別控除や軽減税率との併用は不可です。ほかに利用できる特例と比較検討し、自分にとってより有利な制度を選択しましょう。
相続した空き家を売却する場合、要件を満たせば最高3,000万円まで控除が受けられます。
昭和56年5月31日以前に建築されたものである、一定の耐震基準をクリアしている、相続から譲渡まで事業・貸付けに使用していないなどが要件です。売却の期限も決まっており、相続してから3年後の12月31日までに売却しなければいけません。
また、売却価格が1億円以下であることが必要です。敷地内を分割して売った場合や、複数人で相続した場合でも、合計売却額が1億円を超える場合は適用できません。
特例適用後に自分やほかの相続人が残りの敷地を売却し、売却額を合算した金額が1億円を超えた場合も納税義務が発生するので注意しましょう。合算の対象期間は、売却した日から3年後の12月31日までです。
ちなみに、相続した不動産の取得費が不明な場合は、売却金額の5%を概算取得費として計上するよう定められています。実際の取得費よりも概算取得費が安いと課税譲渡所得金額が増えて、本来よりも税金の負担が大きくなるので注意してください。
控除を希望する場合は、所定の書類を揃えて確定申告時に提出する必要があります。書類の数が多いので、詳細は国税庁公式サイトで確認してください。
マイホームの売却で損失が出たとき、長期譲渡所得に該当する場合はほかの所得との損益通算・繰越控除が可能です。
損益通算とは、各種所得で出た損失をほかの所得から控除できる仕組みのこと。繰越控除とは、その年の損益通算でカバーしきれなかった分の損失を、翌年から3年以内に繰り越して控除できる制度です。
通常、不動産を売却して損失が出たとき、ほかの土地・建物の譲渡所得からは控除ができますが、控除しきれなかった分をほかの所得と損益通算することはできません。しかし長期譲渡所得かつ一定の要件に該当する場合は特例が適用され、ほかの所得との損益通算・繰越控除が可能です。
損益通算と繰越控除の特例はほかにもあり、住宅ローンが残っているマイホームを売却して損失が出た場合に使える特例や、マイホームの買い換え時に旧居宅の売却で損失が出た場合に使える特例が用意されています。
それぞれ要件が細かく定められているので、自身のケースで損益通算・繰越控除ができるかどうかを国税庁公式サイトでチェックしてみてください。
不動産の売却にかかる税金は、それぞれ支払い時期が異なります。支払い忘れがないように、あらかじめスケジュールを確認しておきましょう。
印紙税は契約書作成時に納付します。登録免許税の支払いは、売却する不動産の引き渡し名義を変更するときです。一般的には、依頼を受けた司法書士が登録免許税を代納し、後日ほかの登記費用とあわせて司法書士から請求されます。
所得税と復興特別所得税は、確定申告後の同年3月15日までに納付しましょう。住民税の納付時期は状況によって異なります。
自営業者や給与から住民税が天引きされていない人は、自治体から届く納税通知書を使って自ら納付が必要です。この徴収方法は普通徴収と呼ばれ、通常は6月・8月・10月・翌年1月の年4回に分けて支払います。
給与から住民税が天引きされている場合は特別徴収の対象です。給与支払者が納税の手続きを行うため、本人の支払いは原則必要ありません。6月から翌年5月までの12回にわたり、給与から税額が天引きされます。
不動産売却は大きな金額の取引なので、税金対策に加えて査定額も重要な要素です。より有利に取引を行うためには、売買を仲介する不動産会社を精査する必要があるでしょう。
不動産会社を選ぶ際に役立つのが、不動産一括査定サイトです。情報を入力すれば複数の不動産会社に同時に査定を申込めるので、一軒一軒たずねる手間を減らせます。複数の査定結果を比較することで、売却したい不動産の相場がわかる点もメリットです。
以下の記事では、不動産一括査定サイトのおすすめをランキング形式で紹介しています。査定サイトの活用方法なども解説しているので、不動産の売却を検討中の人はチェックしてみてください。
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