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川邊健太郎
LINEヤフー(株)代表取締役会長、日本IT団体連盟会長
日本海軍400時間の証言 軍令部参謀たちが語った敗戦 新潮文庫/NHKスペシャル取材班(著者) 1枚目GO WILD 野生の体を取り戻せ! │ 科学が教えるトレイルラン、低炭水化物食、マインドフルネス 1枚目友達の数は何人? │ ダンバー数とつながりの進化心理学 1枚目人体600万年史(上) │ 科学が明かす進化・健康・疾病 1枚目

若者にオススメしたいビジネス書"以外"

"活字中毒"である私、川邊が過去読んだ本、書評をオススメしていきたいと思います。(もちろん、新作も)

といっても、優秀な皆さまであれば、話題のビジネス書は目を通していらっしゃるでしょう。今回、私がオススメするのは、みなさまの守備範囲外であろう本たちです。

特に、これからの日本の未来を担う若手、スタートアップ、がんばるビジネスパーソン達に副読本的に読んでもらいたい本を紹介していきます。
  • 日本海軍400時間の証言 軍令部参謀たちが語った敗戦 新潮文庫/NHKスペシャル取材班(著者)
    880円

    海軍のエリート集団である軍令部の面々が戦後数十回に渡りなぜ太平洋戦争を起こし負けたのか反省会を開いていた。

    数年前に同タイトルのNスペをみて本当に恐ろしい気分になったが、あの番組がどのようにして生まれ、どんな取材を行ったかが書かれた本。

    当然、番組では取り上げ切れなかった莫大な取材対象とエピソードが書かれていて興味深い。 陸軍のクーデターによる海軍の支配を恐れ戦争に賛成し、いざ戦争が始まると予算獲得の自己効力感の虜となり戦線を拡大してった海軍の様子が当事者達によって、生々しく語られています。

    「東京裁判を終えた日本弁護団が異口同音に、陸軍は暴力犯、海軍は知能犯、いずれも陸海軍あるを知って国あるを忘れていた。敗戦の責任は五分五分であると」 という反省会結論が心に響きますが、組織における本質的問題はいまも変らない。同じようなミスに陥らないように本当に気をつけなければならないと思います。
  • GO WILD 野生の体を取り戻せ! │ 科学が教えるトレイルラン、低炭水化物食、マインドフルネス
    1,663円

    当時の上司であり、現在の東京副知事である宮坂さんに「お前、これ読んだほうがいいよー、へへへー」と言われて読んだ本。

    基本的にはマクロビとか低炭水化物食とかマインドフルネスとかいう言葉は好きではなく「おいおい、無理するなよ。都会で不健康でいようぜ!」と思ってしまうタチなのだが、この本はおもろかった。

    なぜなら、それらの言葉を一括して「野生」と表現しており、なぜ野生がよいのかを莫大な科学的検証データから説明を尽くしているからである(無論、指向性があるデータの集め方だが。。)

    この本曰く、「脳は考えるために存在するのではなく、体を複雑に動かし、バランスを取るためにある」と言う。

    ホモサピエンスとしてのこの20万年間は、体は特に進化したわけではなく、ひとえに文明を進化させてきたわけで、ヒトの体は19万年間営んでいた狩猟採集生活に基本的には最適化されているという。

    ヒトは最も長く走れる動物の一つで、"持久狩猟"で生きながらえてきた。デタラメに逃げる動物を粘り強く追う際に地形の変化はまさに千差万別で体をかなり柔軟に動かす必要がある。

    まさに脳はその動きをコントロールするために発達し、実際にダンスみたいな身体の動きをできるのはヒトだけらしい。

    (別の本で読んだ知識ですが、持久狩猟を行うために男性は地図を360度・東西南北で理解するが、採集をしていた女性は「あのオリーブの大木を左に曲がって巨岩の所で右に曲がったら桃の木がある」という関連性で地図を理解するらしいです。)

    よって、頭を良くするのも、その頭が感じる幸福感も、体を動かすことによって、最も得られるものらしい。

    (そういう意味で言うと、本来の"頭の良さ"とは、知識や思考能力ではなく、体の動きであり、その観点からいうとオータニさんが現在、人類で一番の頭の良い人であるような気がしてきます。。)

    19万年間の狩猟採集生活の間、ヒトは主には狩りによって脂肪も含む肉を食べ、採集で一部の果物や豆、野菜を食べていた。

    こんなにも炭水化物を食べだしたのは農業が開発されて以降のこの1万~5千年間の話であり、結果として高糖質生活になった。

    故に現代人を悩ませているメタボ系の病気(糖尿病、ガン、心筋梗塞等)は、狩猟採集生活時のヒトにはなかったものであり、現代で狩猟採集生活をしている人には滅多にない。

    ただ、そういう人たちも文明化されるとたちまちに糖尿病になったりする。。

    ということを前提に、自然に食べること、寝ること、そしてなによりも重要なのは他のヒトと共感しながら生きていくことをどのようにやっていけばよいか、そしてその際に体、特に脳と腸はどのように反応していくのかをこの本では複数の論文をネタ元にメタ解析的にでも分かり易い文章で説いてくれる。

    ヒトは見たいと思う現実を見てしまう生き物である。

    盲信する必要もないが、猟師であり漁師である私の生活はまさにこの様なワイルドな日常が多い為、この本の主張には共感を覚えてしまった。

    要は、人生や日々の暮らしの中で、健康の為、何を信じて実行するかが大事。

    皆さんも参考までにご一読されてみてはいかがでしょうか?
  • 友達の数は何人? │ ダンバー数とつながりの進化心理学
    2,319円

    人間は社会的動物である。社会の規模、複雑さは脳みその大脳新皮質の面積に比例するらしく、記憶の中で顔と名前が一致する150名、5次元志向意識水準が現時点の人間の限界らしい。 (ちなみにチンパンジーは44名)

    そして、その150名の社会を維持するうえで、おしゃべりや噂話は絶大な効果を発揮するらしく、起源は猿の毛づくろい(グルーミング)にあるらしい。 おしゃべり、噂話をしている時、人は各種脳内麻薬を出し、心地よくなり、結束が強くなるそうだ。。 なので、噂話、おしゃべりは無駄ではなく、むしろ、目的、本質であることは、その種のことが好きではない私にとっては衝撃であるし、本質がそうである限り、身近な人と時空を超えたおしゃべりの装置であるSNSやメッセージアプリは本質的に拡大するということになると思います。 (でも、プライバシーのアウティングはダメですよ!)
  • 人体600万年史(上) │ 科学が明かす進化・健康・疾病
    1,012円

    上巻は人体の起こりと進化が詳細に書かれており、環境変化に適応した人体の輝かしい軌跡が描かれる。
    下巻は打って変わって"ディスエボリューション"と作者が呼ぶ、農耕とその後の産業化に伴う人体と生活環境とのミスマッチ病の原理と予防法(その多くは現代人の怠惰さによって予防できないのだが、、)とがこれでもか、これでもかと繰り返しかかれ、自分の普段の生活を振り返るにかなり憂鬱な気分にさせられる。。

    生物の進化のほとんどは環境変化への適用と繁殖の最大化にあり、その特徴は非常に長い年月をかけて少しずつ適応していくことにある。 ちょうどその長い期間の間、ホモサピエンスはずっと狩猟採集生活をしていて、少し前まで長い氷河期が続いた。つまりはそういう生活に適合するように人体は進化している。
    これに対して1万年前ぐらいから農業と牧畜というイノベーションが起こり、食料の安定化と種類の単調化(狩猟採集生活でははるかに多様な食べ物を摂取していた)、そして牧畜による感染症の拡大が人類に環境の変化をもたらせた。

    それを数百世代を経て進化の力で適応すれば人類はまた違った展開があったのだろうが、その次のパラダイムをわずか数十世代で産業化という形で成し遂げてしまったため、体は狩猟採集生活のままだが、生き方は産業化による"高カロリー、高血糖、運動不足、感染症撲滅"的な生活にこの250年で急激に突入し、結果として、糖尿病、心臓病、がん、腰痛、近眼、親知らずの痛み等々のミスマッチ病が我々を襲うことになり、各国共に医療費は国家の首を絞めるほどの莫大なものとなっていった。

    これらの予防はきわめて単純である。糖質のものはなるべく採らないようにし、食べ物は種類を多く食べ、立って歩いたり走ったりすることを生活の大半にし、共同で子育てをするだけである。 ただ、現在の文明化、分業化された生活はそれをなかなかさせない。させないのでミスマッチ病におかされ、生活改善ではなく科学的な薬の力で抑制するのみである。また、都合の悪いことにこれらのミスマッチ病はゆっくりと進行し、繁殖とは関係のない年齢になってから発症するので、生命の得意技である"進化圧"が加わりにくい。

    という現状認識を行って残念ながらこの本は終わる。ミスマッチ病を防止するため、知識と行動が重要だとすると、まずは適切な知識を与えてくれるのがこの本で、それを基に行動するかは自分次第というところか。まずは甘ったるい炭酸飲料を飲むのを止める事からはじめるか。
  • 人類と気候の10万年史 │ 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか
    1,012円

    昨日、今日の気候を以て「温暖化のせいだ!」とするよりも、もっと長い年月の気候の変動を俯瞰で捉えて、今日、明日を考える事が重要。

    著者の中川先生が携わった福井県南部の水月湖の堆積物試料(この5万年の気候変動を知る上で世界で最も正確な年縞堆積物試料)から分かる、人類が活動しているこの10万年にどういう気候変動があり、今後、言えることは何かを、水月湖堆積物試料が世界一となる苦労話と共に語っている本。

    昔、活字で読んで、今回、Audibleで聞き直してみたのだが、やはりとても勉強になる。

    以下はその要点
    ・地球の気候は地球と太陽の位置関係によって数万年単位では一定の法則性を持っているよう(ミランコビッチサイクル)だが、それ以下の短い期間や超長期間になると複雑な要素が相互に影響しあう典型的な非線形、カオスとなり本質的に予測は不可能である。
    ・この500万年ほどの傾向は地球は寒冷化に向かっていることであり(ヒマラヤができたことが原因の一つか?)、寒さは堆積効果があるので(例えば氷河)、容易にはその傾向は収まらない。
    ・数十万年のスケールで見た場合、正常な状態とは「氷期」のことであり、現代のような温暖な「間氷期」はむしろ例外的状態である。
    ・今回の間氷期は例外的に長く続いており、これはむしろ人間の諸活動によって(要するに温暖化活動によって)維持されている可能性がある ・要するに人間活動による温暖化は近年に顕著な傾向ではなく文明が生じてから数千年間続くトレンドである可能性がある。
    ・間氷期の、特に気候の相転移が起こる前の安定した気候の時代だったからこそ、未来の予測が可能であり、予測が可能であったから現代文明は構築された。逆に気候が不安定な時代や氷期に文明社会が生まれた形跡は一度もない。 (それでも人類は生延びてきたが)
    ・相転移による気候変動は極めて大幅(数度の変化)であり、極めて短期(3年とかで)で行われる可能性がある。そういった、現在の人間が引き起こす気候変動よりもっと激しい気候変動を内部から発生させる力を自然は潜在的に持っている。
    ・文明ではなく、生物としての人間はそれらの劇的な気候変動を乗り切れる圧倒的な適応性を持っているので、安定的な間氷期時代の文明でだけで世の価値を決めきるべきではない。

    いやあ、俯瞰でものを見る、という意味でこれほど為になる本もそうそうないように思えました。 いまの気候変動の議論もこういう俯瞰で捉え直すとまた違う観点も見えてくるかと。
  • 三体 I・II・III シリーズ全巻セット 全5冊
    5,830円

    現代中国の代表的SF小説となった「三体」。

    I〜IIIまで全5冊ある大作を各シリーズごとに書評するのは大変なので、、私が思うこの作品の特徴、おもろい点をネタバレにならない範囲内で箇条書きにして、皆さんに効率よくお伝えしたいと思います。

    ・いままで読んだ小説の中で、もっとも"スケール"の大きな作品。話が宇宙全域に広がる空間的スケールと、数十億年を経る時間的スケールと両方とも無限大。ヤバい。

    ・量子論、相対論などの物理学、気候変動やカオス理論、機械工学などの理論と進化の方向性をふんだんに盛り込んだ、まさしくサイエンス・フィクションの標本のようなディテール。

    ・宇宙時代の相互確証破壊である暗黒森林理論、同じく宇宙スケールでの監視社会を想起させるソフォン、地球外生命と対抗する為のウォールフェイサー計画、水滴、最終兵器"物理法則"などなど、独創的な概念が多く、私の拙い読書歴ではかつてない独創性の高いストーリー。

    ・特に三体IIIにおいて顕著だが、宇宙スケールの大問題を扱っているのに、最後は人間の内面的側面、具体的には孤独と愛(恋?)の話に収斂していくという、「うそ~ん!」的展開だけど、「まあ、でも、事ここに至らば、そうか。。」と思える腹落ち感。

    などなど、三体の魅力を挙げればキリがないので、大著ですが、読まれる事(あるいは見る、聞くこと)をお勧めします。

    蛇足で一点だけ申し上げると、私はこのシリーズは全て"読み切る"のではなく、Audibleで"聞き切り"ましたが、、登場人物が中国人が多い為、耳だけでは理解するのが恐ろしく大変でした。。

    この作品のだけは、表意文字かつ表音文字である漢字の長所を活かして、活字版で読むことをおすすめ致します(苦笑)
  • 真相 │ マイクタイソン自伝
    5,980円

    この本はなんと表現したらよいのだろう!?筆舌に尽くしがたいとはこのことだ。

    端的に言えば、ボクシングヘビー級の最年少統一チャンピオンとなったマイク・タイソンの自伝なのだが、全体を通じて、彼のサクセスストーリーではなく、人生の大反省、内観につき合わされ、それがあまりに凄過ぎる内容なので読んだ後もしばし呆然とする本である。

    その内容は本当に読んでもらうしかないのだが、のっけからニューヨークブルックリンの幼年期が強烈過ぎる。

    内向的な性格のタイソン少年が周りの環境にしっかりと教育されて、飲酒、薬、強盗、ケンカの限りを尽くし、12歳までに51回逮捕され、少年院送りとなる。そこでボクシングのトレーニングを本格的に開始し、伝説のトレーナーであるカスダマトと出会う。

    よくタイソンを語る際に「(名トレーナーである)カス・ダマトが死んでから、タイソンは無軌道になった」といわれるが、この本にはその真相が書かれている。

    つまりは逆、カスダマトがタイソンを無軌道な男に仕立て上げたことが、その具体的な修行模様を通じて炙り出されていく。

    ここがこの本の前半の見所だと思う。まさにこの師匠にしてこの弟子あり。

    吉田松陰と高杉晋作を髣髴とさせる。やば過ぎる二人。

    タイソンの最年少ヘビー級王座奪取を目にせずカスは死去し、憂鬱なチャンピオン(タイソンは基本的には躁うつ病)は、無軌道の方向性を示してくれる司令官なく、「消費、女、薬」をモチベーションとしてその後の無敗伝説を作り上げていく。

    本当の意味でちゃんとトレーニングをし、モチベーションを持って臨んでいるのは、最初にWBCの王座になった時が最後で、あとは強烈にふしだらな生活の中で、なおも無敗を続けていたのだから驚きである。

    そして、ついに、1990年、東京ドーム。

    バスターダグラス戦で統一王座から陥落する。同時にレイプ疑惑で逮捕、有罪となり、刑務所入りとなる。

    この刑務所での3年間の生活から復帰と再度の世界チャンピオン、そしてホリフィールドとの死闘、耳噛み事件、その後の「女と薬代を手に入れるための惰性のボクシング戦の数々」が第二の山場となる。

    この頃のタイソンのことはよく知らなかったので、暗澹たる気持ちの中で読み進めた。

    これほど人生の辛さや愚かしさをこちらの心にも感じさせる記述はなかなかないと思う。

    第三の山場は、引退後の超すさんだ生活、映画「ハングオーバー」の予想外のヒットからの芸能人としての再起、再婚と子供の急逝などを通じて自分を見つめなおし、一念発起でアルコール依存、セックス依存、ドラッグ依存の3重依存からの抜け出すための苦闘が、これでもかこれでもかとつずられる場面

    読み進めていると、不思議と自分がそういう生活をしているような気分にさせられ、頭がおかしくなりそうになる。。

    やはりこういう本はそうそうない。

    最終章は、哲学書かと思わせるような自分の心の内側の描写が痛々しいほどに続く。

    3重依存も抜け出しつつある中でのプロローグ、そして、衝撃のプロローグ2。最後まで見るものを油断させない本であった。

    改めてこの本の、読んでいるときの感情の起伏は何なのか??と思う。

    最初は、自分とはまったく関係のない異物を異物として読み、途中から心理描写が増えていくため、だんだんと感情移入をしていき、そして最後は、自分あるいは人間の中に誰でもある欲の深さや愚かしさなどを見てしまい、タイソンへの嫌悪というよりかは自己嫌悪に陥ってしまうのだと思う。

    とまあ、そんなヤバい内容の本なのだが、救われるのが、全般を通じて、タイソンが極めて知的かつ自嘲的ユーモアに貫かれているという点である。

    辛い人生も「自分を笑う」という視点ひとつで、こうも面白くなるんだから、そのような心の態度が重要であるということが理解できる本である。

    とにかく、自分程度の文章力ではこの本のことは伝わらない。長く、辛く、どうにも愚かしい内容だが、それでも絶対に読んだほうがよいと思う一冊である。
  • 銃・病原菌・鉄(上) │ 1万3000年にわたる人類史の謎
    1,210円

    なぜいま自分がここにいて、こういう生活をしているのか?という大きな疑問に答えてくれる、博識と文脈に富んだ本。

    とどのつまり、いまのユーラシア系白人が世界の大半を支配してて、別途中国に漢民族がたくさんいる構図は、ユーラシア大陸が東西に長く、食糧生産と家畜化が可能な野生種の動植物が他の大陸よりも豊富にいた事が根本の要因らしい。

    これはほぼたまたまの要因なので、そこに黒人が最初に住み着いていたら黒人の支配になっていたし、オーストラリア大陸に生産・家畜可能な動植物が豊富だったらアボリジニがアジアを広く支配していたかもしれない。とにかく、人種による能力の差ではなく、本当にたまたまなんですよー、と作者は莫大な知識に基づいてそれを説明していく。

    この「環境による発展の決定的な差」の知識は、ビジネスに置き換えても何か使えるような気がするのだが、それが何なのか置き換えられない。。
    うーん、もっと勉強せねば。
  • 男一代菩薩道 │ インド仏教の頂点に立つ日本人、佐々井秀嶺
    3,295円

    これはすごい本というか、すごい人物の話。

    インドではヒンズー教の隆盛によってほぼ絶滅していた仏教がこのところ再興しつつあり、一説には1億人の信者となりつつあるらしい。このインド仏教再興の頂点に立つのが、日本ではほとんど知られていない日本人である佐々井秀嶺氏であり、この佐々井さんをふとしたことからTVのドキュメンタリー番組で取材することになった筆者が人間・佐々井とその背景となるインドの不可触民と仏教への改宗に迫っていく。

    とにかく、仏教の母国であるインドがそんなことになっていたとはまったく知らなかった。。 改宗運動の祖であるアンベードカル(ガンジーの盟友で現代インド憲法の起草者。後にカーストを事実上温存するガンジーと仲違いし、カーストの概念のない仏教徒に改宗する)が、釈迦、龍樹とならび聖人扱いされていて、その龍樹の示唆を受けて、アンベードカルの正統な後継者となったのが佐々井秀嶺みたいな、御伽噺めいた系譜があるわけだが、実態として、毎年数十万人の不可触民を年に一度の改宗式で日本人がどんどこ改宗させていっているんだから、すごいことである。

    そのほか、龍樹寺等の聖地奪還運動等も先頭に立って指揮する佐々井氏は本の表紙にあるように僧侶というよりかは、ヤクザの大親分といった感じであり、日本の枠に収まらないそのスケールがこの本でもよく現れていると思った。 インドの仏教は、抱えている苦悩や不正義も、救済する人の数もケタ違いであるなと思った。 「へー、こんな人も現代にいるんだー」という意味では本当に稀有な本。
  • 隠れた脳 │ 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学
    1,760円

    脳、無意識が作り出す判断のバイアスについては数々の本を読んできたが、この本は実例を用いながらエッセイ的に書かれていて興味深く、示唆に富むことが多い。

    脳のバイアスは人とのつながり(関係性)において増幅するので要注意。 つまり狭いコミュニティでは愛情は強く働き、規模(数、距離)が大きくなると人は非情になる。

    人間の脳の構造的には、本当に仲のいい人は150名しか作れないらしい。(150人理論は、ダンバー数としても有名)
    さて、あなたにとっての150人は誰か!?
  • ザ・ビッグイヤー │ 世界最大のバードウォッチング競技会に挑む男と鳥の狂詩曲
    4,689円

    世の中、様々な**バカがいるが、これはまさしく鳥バカ、バードウォッチング・フリーク達の群像劇である。

    舞台は全米探鳥協会が主催する全米探鳥競技大会。ルールは至ってシンプル。「元旦から大晦日の1年間で米国全土にいる鳥を最も多くの種類を見たものが優勝」というもの。審判や細かいルール、証拠の写真提出などもなく、「何月何日、どこで、何を見た」というリストの提供だけで、競技参加者はお互いを信じあってレースを年間で展開する。(実際には、希少種の鳥はこの競技に参加するバーダーによって一時的に集中的に見られてしまうため、お互いのデータを突合すれべ真偽のほどは分かるようになっている)

    普通のこの競技の楽しみ方は、自分の生活圏でバードウォツチングをして、旅行先とかでもカウントしてそれを提出して自己満足する、みたいなものなのだが、中にはアラスカやアッツ島なども含む米国全土数千キロを常に移動し年間250日ぐらいを探鳥に費やすという猛者がおり、その猛者たちが自己レコードや「歴史上、最もアメリカ国土にいる鳥を1年間に見た人間」になるための挑戦を「ビッグイヤー」と呼ぶらしい。

    そのビッグイヤーの中でも稀に見る激戦かつ、もう二度と破られることはないであろう、1年間で745種類を記録した1998年のレースを、この本では3人のハードコア・バーダーを中心に追って構成している。

    まずこの本ではバードウオッチングとアメリカ探鳥史を分かりやすく紐解いてくれる。そうかハンティングがエコになって、バードウオッチングに進化したんだ。。みたいな薀蓄が多数あった上で、いよいよ真打の3名の伝説のバーダー、即ち98年大会をぶっちぎりの1位で優勝したキャラも一番濃いサンディ・コミト、エリートビジネスマンにして何事にもスマートなアル・レヴァンティン、原発に勤める収入をすべて探鳥に費やし、女房にも逃げられた巨漢にして朝寝坊・大いびき男のグレッグ・ミラーが登場し、98年のビッグイヤーの詳細がつづられていく。

    この本の帯にも「バカか偉業か?」と書かれているが、まさにおバカ全開のエクストリーム探鳥が展開されていく。

    1日数百キロの移動は当たり前。常に大しけの海に行ったかと思えば、人間が生きる上で極めて過酷な環境であるアッツ島に1週間滞在したり、あるいは空気も希薄な標高の山にヘリで探鳥をし、鳥の上から鳥を確認するといった完全に行過ぎたバードウォツチングがそこにに展開されていく。3人のそれぞれの立ったキャラもこの本のもう一つの味わいとなっている。(特にサンディ・コミトのキャラの強さは読者の頭の中に完全にイメージを作り上げる)

    やがて物語はTOP3人が共に700種を超えていく異常展開でのデッドヒートをハラハラドキドキに描き出してくれる。そして、運命の大晦日、3人はそれぞれの過ごし方で激闘のビッグイヤーを終えるわけだが、そこにはそこはかとない余韻が生まれる。(サンディコミトだけ、早寝をして、翌日元旦から新たな探鳥を全く懲りずにやりはじめるのだが。。)

    人はなぜ他から見ると大して価値のないことに夢中になったり、身持ちを崩してしまうほどにのめり込んでしまうのだろう。。

    この本の物足りなさとある種の凄みはこの3人がバードウオッチングの魅力をほとんど語らないところにあるし、そんなことはこの本の主題ではないのかもしれない。
  • 謎の独立国家ソマリランド │ そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア
    990円

    ソマリアと言えば海賊。そして首都モガディシオを中心として"リアル北斗の拳"が横行している国というか無法地帯のイメージがあるのだが、なんとソマリアの北部では"ソマリランド"が事実上の国家として十分に機能し、民主的で平和な国家を作っているらしい。そして、経済はほぼ規制がない為、自然と最も合理的に運営され、発展が訪れているのだから驚きだ。

    本書はこの"謎の国家"ソマリランドでの見聞を中心に近隣の海賊国家・プントランドや"リアル北斗の拳"モガディシオなどの物騒な事情なども十分に触れながら「なぜこのような平和国家が出現でき得たのか?」ということに迫っている。

    読み終えれば"統治"や"民主主義"ということの原始的な本質が学べるし、我々では全く想像できないような文化の違いをこういう本を通じて知れるのは好奇心が満たされて楽しい。旅をしたくなる。 作品中、作者がソマリアの文化である"カート"を食べまくっているのが面白い。カートで調子をつけてハイになってから部族同士が話をする。平和の源泉は意外とこんな所にあるのかもしれない。

    なお、この書評はこの本が出た当時のものですので、最新のソマリアの政治的状況はこれとは異なるものである事を予めご了承ください。
  • 漂流
    742円

    私が人生で最も勇気付けられた小説です。

    江戸時代の実話を元に書かれた作品。

    徳川幕府の鎖国政策という極めて保守的かつイノベーションを許容しないことによって生じた社会によって、江戸時代唯一の冒険スペクタルは、国禁止を犯した漂流者に対する取り調べ吟味書であったという作者・吉村昭独自の着想で書かれている。

    舞台となるのは、(漂流民達はわかってないが)伊豆七島というか小笠原諸島の青島。そこに漂着した漁民達がどのように、何を支えとして生き残り、そして意外な展開を迎えたのかを淡々とした吉村昭テーストで描きだす。

    (以後、吉村昭は何冊もの"漂流モノ"を書き記す事になる)

    島内の資源は、大量にいるアホウドリとたまに流れ着く舟材の藻屑のみ。。

    生き残れた最大の要素は作品冒頭の、一見関係なさそうなエピソードの中にあるので、そこを注意して読むのがよいかと。

    スタートアップ界隈では「あなたのハードシングスは何ですか?」と聞くことが流行っているようですが、むしろ私はそれらの人の全てに、、

    「"漂流"を読め。

    これの前には、我々のあらゆるハードシングスは、ハードシングスではない。

    アホウドリしかいない世界で君は正気で生き残れるか?」

    と言いたいと、常日頃から思っています。

    (↑ここ最重要ポイント)

    なぜか最後には勇気づけられ、元気になってしまう読後感を得られる本ですので、本物のハードシングスに興味がある方はぜひともお読みください。
  • 野望の王国 │ 完全版 1
    544円

    それぞれに幼少の頃に遺恨を背負った東京大学アメフト部の二人組、橘征五郎と片岡仁が暴力と知力で日本の支配を試みる、日本マンガ屈指のバイオレンス作品。

    ハチャメチャな本作の原作者は「美味しんぼ」の雁屋哲、圧倒的な筆圧の作画は由紀賢ニ。

    以前に書いた書評はロストしてしまったので、私の人生に重要な影響を与えた本書を、やや回想録風に新たに書いてみます。なので、ストーリー等は実際に読んで頂くか、Yahoo!で検索してみてください。

    高校生の頃、誰しもジャンプなどの週刊少年マンガ誌から青年マンガ誌へと乗り換え、大人の階段を登る訳ですが、私は"ビーバップハイスクール"や"ゴリラーマン"を擁する"ヤンマガ派"でした。

    "スピリッツ'は、"コージ苑"→"伝染るんです。"という伝説的な巻末4コマ連載を楽しみに読んでいた程度で疎遠でした。

    それが、相原コージと竹熊健太郎、両氏によって連載が開始された「サルでも描けるまんが教室」によって、毎週見逃せない雑誌となっていくのです!

    "サルまん"自体が、全てのスタートアップとビジネスパーソンに読んでもらいたいくらい分析的で目線の高い漫画なのですが、とにかく毎週夢中になって読んだ"サルまん"の画風が「野望の王国」というマンガのパロディなのである、という話を大学の頃に小耳に挟んだのです。

    ちなみに、"サルまん"のストーリーも「漫画で日本を支配しよう」とする相原(19歳)、竹熊(22歳)という設定となっており、全般的に「野望の王国」へのオマージュ、パロディ感が強い作品であります。

    それで、どうしても「野望の王国」を読みたくなった私は、渋谷の丸山町にあった"まんだらけ"に通って本書の中古本を大学4年間かけて少しずつ買い集めていったのです。

    読んでもらえれば分かりますが、「野望の王国」の一巻辺りのストーリー展開と殺される人の数は猛烈です。

    本書が絶版してからかなり時が経過した1990年代前半のまんだらけ一店舗における本書の入荷可能巻とストーリー展開とのアンバランスさは凄まじく、結局、全巻コンプリートはおろか、歯抜けでしか単行本を揃える事ができず、当然にストーリーもさっぱり分からないもどかしい数年が私の中で過ぎて行きました。

    1巻飛ぶだけで、全然話の展開について行けなくなるのです。。

    転機は98年。当時、インターネットが産業として勃興期を迎えており、特にスタートアップの盛り上がりは凄まじく、渋谷界隈のベンチャー企業を糾合した"ビットバレーな夜"という会合が毎月の様に繰り返されていました。

    その"ビットバレーな夜"会合の代官山の鎗ケ崎交差点付近のクラブで開かれた会合で、"ビズシーク"なる会社を経営している人物と知り合いになりました。

    聞けば「全国の古本屋を束ねて本を探して購入できるサービスをネット上で提供している」との事でした。その当時、「知り合ったネット企業経営者のサービスは全部使ってみる」習慣を持っていた私は、ビットバレー会合後に電脳隊の事務所に戻って、その知り合った人のサービス、"Easy Seek"にアクセスしてみました。

    Easy Seekのトップページには「探し物はなんですか?」と書かれていて、一番良い位置に検索窓があります。

    古本が探せるサービスであることは、代官山で聞いていたので、「探している本と言えば、、」ということで反射的に入力したのが大学時代、4年間かけても全巻を探しきれなかった「野望の王国」でした。

    当時のEasy Seekの仕組みは、探している本を登録すると、束ねている古本屋が個別に電子メールでお知らせしてくれるものだったので、あまり期待をせずに返事を待っていました。

    すると数時間後、何と複数の古本屋さんから

    「野望の王国、全巻あります。
    保存状態良」

    みたいな返事が来るではないですかっ!

    これにはびっくりしました。自分の足では数年間がかりでもコンプリートできなかった作品が、僅か数時間で、、

    この凄いサービスを作っていたビズシーク社の社長こそ、のちにEコマース革命やPayPay事業を共に行なっていき、最終的には私のヤフー社の社長の後事を託す事になる小澤隆生氏その人だったのです。

    「こんな凄い、意義深いサービスを提供している社長とは一度、ご飯を食べておこう」と思って、数年間探していた漫画が一瞬で見つかった旨のお礼と共に会食のお願いを小澤さんにしました。

    会食中、話は当然に「野望の王国」に及び、小澤さん自身もそれを読む事になり、かつビズシーク社で仕掛けた新たなサービスである「復刊ドットコム」の影響もあったのか、本書は見事に出版社から再発売されたのでした。

    とまあ、こんな感じで、自分との関わりでこんな長期間に渡り、こんな展開を見せた本は他にはありません。

    「野望の王国」の圧倒するパワーと残虐性、そしてこの作品に突出した"思想のなさ"はどこから来るのか、興味があります。

    なぜならば、原作者の雁屋哲は本作以外はむしろ思想に満ち溢れた作品ばかりを世に送り出し続けているからです。

    雁屋哲の生い立ちや思想は、その昔、少年サンデーで連載されていた「オレのまんが道」の雁屋哲編で読んだ事があります。

    小中学生の頃に読んだうろ覚えの記憶だと、確か体が不自由で(車椅子?)、進学した東大は全共闘真っ只中で、左派思想に染まりつつも車椅子で一緒に闘えなかった悶々とした気持ちを漫画にぶつけている的なことが書かれていたように思います。

    雁屋哲のそのもどかしさが投影された作品が少年サンデーで1974年~1979年にかけて連載された「男組」です。

    権威主義独裁体制的な青雲学園(高校)およびその支配者である神竜剛次(高校生)に対して、主人公である流全次郎(少年院生)が本格的な功夫を駆使して闘いを挑み、最終的には神竜の父親である"影の総理"にカミカゼ特攻を仕掛け、"俺たちの理想"を実現しようとするストーリー。

    そこで語られる理想は、若さであり、仲間であり、自由であり、キリストの"一粒の麦"の喩えられ、そしてなによりも、流全次郎が不利を承知で終盤までつけている(ことを誓った)"手錠"が、実生活における雁屋哲の"車椅子"とオーバーラップして、エモ言われぬ思想的熱さを作品全般から感じ取ることができます。

    はたまた、1983年~2014年まで連載された"美味しんぼ"は、文化的には"グルメ漫画"というジャンルを確立するという画期的作品であるにも関わらず、そこに通底するメッセージは、合成着色料反対、牛乳の高温加熱反対、最終的には原発反対と、良く言えばエコ思想、悪く言えばギトギトの左翼思想を、平和な時代の青年誌読者諸君に"思想教育"し続けた伝道書であり続けました。。

    思想で貫かれた"男組"から"美味しんぼ"の2作品の間に連載した「野望の王国」(1977年~1982年)だけがひたすら無思想、結果的に「登場人物は全て極悪人」というアウトレイジ的作品に仕上がった、この虚無感は一体なんであったのでしょうか?

    そういった無思想性が影響してか、「野望の王国」のストーリー展開はどんどんと荒唐無稽となっていき、が故に読む者の注目と疑問とをより集めずにはいられなくなっていきます。

    荒唐無稽さの代表格は、読者の間で"川崎問題"と言われている、「物語が川崎の制圧から全然先に進まない」、「一体、川崎で何千人、殺されているのか?」といった物語の異様な展開。

    そして川崎問題の主要因である橘征二郎と「実は一緒にやっていけるんじゃないの?」と突っ込まれた際の征五郎の取り乱し方と、全くたいしたことがないその(征二郎とは同じ天を抱けない)理由。

    とんでもない闘争と混乱を経た上で、ついに野望を成就させた征五郎が、その達成を確認をする仰天の手法、、などなど。。

    どれもが読んでから25年近くを経てもなおこれだけのツッコミと絶賛として評論できるのでありますから、

    「思想よりもインパクト」

    を目指したであろうこの作品の面目躍如というところでしょうか。

    結果的に、この作品とそれが持つエネルギーは、スタートアップした直後の私の脳裏に強烈に残り、

    「電脳隊メンバーは全員、"野望の王国"を読まなければならない」

    という社内の暗黙知となっていったのであります。。

    (ミーティングでも何かを伝える際に

    「それは赤寺なみのクオリティでやってくれ!」

    など、野望の王国メタファーで会話する為、実際に読んでいないと仕事に支障をきたす事になっていました)

    それから少し経って、師事していた日本の中央官庁の官僚の方に、馬鹿にされるのを覚悟で本書を薦めて見たところ、(たぶん、漫画とか読んだことないスーパーエリートな人だと思うのですが)、一夜にして全巻読んできて一言、我々にこう言いました。

    「昔の日本って、ほんとこんな感じだったんだよねー」

    と苦笑まじりに仰られていたのが、爆笑かつ印象的でした。

    なので、スタートアップ界隈の人がよく(マンガの)

    「"サンクチュアリ"が私のバイブルです」

    と言うのですが、(今回書いてきた経緯的に)私からしたら、それは笑止千万。

    であれば、"男組"、"野望の王国"、"サンクチュアリ"と読み比べた上で、言ってみろ、という事なのであります。

    野望への渇望感が違いすぎるので、スタートアップは断然、「野望の王国」を読まねばなりません!

    (ちなみに、"サンクチュアリ"と"男組"の作画は、同じ池上遼一先生です)

    すみません、「野望の王国」について語っていたら、思わぬ長文となってしまいました。

    あなたのハートには、何が残りましたか?
    いやぁ、漫画って本当にいいもんですね~
  • 空海の風景(上巻)
    2,200円

    昭和・平成で"国民的作家"と言われた司馬遼太郎さんの作品で、若手が読んでなさそうなモノを紹介します。

    私のブクログの小説のカテゴリで初めて★5をつけた。かつ暑苦しい司馬遼太郎の小説で二回以上読んだのは「関が原」と「空海の風景」だけ。それぐらいこの小説が好き。

    空海は約1200年前の人物であり、そういう遥か昔、かつ宗教という精神世界のことを

    「小説になんかできるわけないだろう!」

    という作者の開き直りからこの独特の小説が生まれるわけだが、まさに小説と言うよりも心象スケッチである。

    でも、それがよい。

    司馬遼太郎の想像力や思考がどういうものであったか、そして中世の日本人や中国人、そして仏教のことがおぼろげながらもいろいろ理解し、消化されていくようでなんとも好奇心をくすぐられる作品になっている。

    以前訪問した高野山の住職が

    「空海というのは"日本的"と言われるもののほとんどすべてを作った。いわば日本と言うOSを作った人という感覚。長くはない活動期の中でこれだけのことをやれたという点において、アリストテレスやレオナルド・ダヴィンチと並び称されててもよいぐらいである」

    と、おっしゃっていたのだが、そういった空海の類まれなる才能はこの作品を通じても余すところなく伝わり、それを司馬遼太郎はある種のうさんくささをもった人物として空海を表現している。

    空海とは、それぐらい実力も"山っ気"もある人物だったのだろうと想像が広がる。

    夏休み、この小説を読んだ上で、高野山に旅してみるのもまた楽しいかと。
  • 家康、江戸を建てる
    946円

    今もなお発展を続ける1500万人都市の大東京。発展の基礎は、今年の大河ドラマの主役である徳川家康が作った訳で、その初期の頃、江戸がどのように造られていったのかを、河川、通貨、水道、石垣、天守閣をそれぞれ造った有能な役人を中心に描いていく歴史小説。

    NHKでドラマ化もされてます。

    この作品は、なかなかの新機軸。おもしろかった。

    江戸は「ここを徳川の一大拠点にしてみせる!」といいう家康の信念と「元和偃武、平和の時代こそ自分の出番!」という有能な役人との情熱が掛け合わさったことでできたことがこの本を通じてよくわかる。

    家康モノと言えば、いまの大河ドラマがまさにそうだが、本多忠勝、井伊直政、酒井忠次、あるいは本多正信などが主要登場人物。

    だが、この本にはそれら一線級のスターは出てこない。

    伊奈忠次(利根川を東遷させ関東に莫大な農耕地を作り上げた男)、後藤庄三郎(日本橋付近に金座、銀座を造り、日本を秤量貨幣から計数貨幣制度に変えた男)、大久藤五郎と春日与右ヱ門と百姓の六次郎(現在の井の頭公園の水源を開発し、水道橋を通して山の手に飲み水を供給した男たち)などなど、

    歴史に埋もれた実に渋い配役で物語が展開していく、まさに一隅を照らす者たちの大江戸プロジェクトXな訳である。

    巨大権力者と能吏達との壮大な都市建設物語、現代の官僚や巨大組織に勤める人たちにもぜひとも読んでもらいたい本である。
  • 64(ロクヨン)
    1,189円

    "読んだ"のではなく、Audibleで"聞いた"のだが、これほどに小説らしい小説もそうないのかな、と思う。

    7日間しかなかった"昭和64年"に起きた誘拐事件のその後を、警察庁と県警、県警内部のよしなし事とを緻密にリンクさせながら展開していくクライム・組織論小説。

    横山秀夫は、クライマーズ・ハイ等、とある事件とそれを扱う組織や末端の人間との相克を描くのが上手。「物語の"劇性"とは"葛藤"である」ことがよく分かる作品です。